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横浜西簡易裁判所 昭和32年(ほ)1号 判決

請求人 朝熊幸平

★ 決定

(申立人氏名略)

右朝熊幸平の申立にかかる昭和三十二年(ほ)第一号再審請求事件につき検察官の意見をきいた上次のとおり決定する。

主文

本件申立を棄却する。

理由

一、本件申立の要旨並びに提出の証拠は別紙のとおりであるが、その要点は、申立人のその後の調査によれば

(一)  申立人の操縦する自動車によつて本件略式命令記載のような事故を発生せしめたことの直接の目撃証人は存しないことが明かとなつたこと。

(二)  本件事故直後申立人の当時使用していた自動車に附着していた肉片がマッチ棒の頭程度の大きさのものであること。

(三)  検証に立会つた旨調書に記載のある見上公司は、真実は検証に立会つていないことの判明したこと、また事故発生の当日申立人の運転する自動車に終始助手として同車していた田中孝明のいうところによれば、当時申立人の操縦した車によつては途に事故の発生した事実がないことが明かとなつたこと。以上の諸点にあるものの如くである。

二、よつて次にそれらの諸点について検討する。

本件略式命令については、司法警察員に対する野口ミネの供述調書が事実認定の基礎資料とされている。そして右調書は右野口が本件事故を目撃したこと及び当時の状況についての供述記載をその内容とするものである。ところで本件申立によれば、その後、そのような目撃者は当時実際は居なかつたことが明かになつたというけれども(尤もこの主張は刑事訴訟法第四三五条各号の何れに該当する主張か必ずしも明白でないが一応申立人のいう、同条六号の事由として判断する)、この点については何等の立証もないから前掲(一)の主張自体理由のないこと明白である。また本件事故当時申立人の当時使用していた自動車の車体部分より摘出された被害者のものと覚しき肉片の大きさがその本件申立の程度であつたとの(二)の主張自体それのみを以てしては刑事訴訟法第四三五条各号の再審事由の何れにも該当せず、また横浜地方裁判所昭和三十一年(ワ)第三八二号損害賠償請求事件についての昭和三十一年十月十七日午前十一時における証人田中孝明尋問調書によれば同人は、本件事故発生の日、被告人の運転する自動車に終始助手として同乗していたが、当時、被告人の操縦した自動車によつて、本件事故の発生したことがなかつた旨の右田中の供述記載があるけれども、そもそも本件の一件記録中司法警察員に対する前掲田中孝明の供述調書にも同旨の右田中の供述記載があり、しかもこれらの調書自体、本件犯罪事実の認定を左右する積極的価値ありとなしがたいものであることはその記載内容に徴して明かであるから、結局前掲(二)、(三)の主張を以て無罪を言渡すべき新たな証拠を発見したときにあたるものとなすを得ずその他法定の再審事由にも該当しないのでこれらの主張自体失当として排斥を免れない。次に一件記録中、司法警察員に対する見上公司の供述調書によると、昭和三十年十一月二十一日横浜市保土ヶ谷区宮田町二、二一一番地マツダ自動車販売会社保土ヶ谷マツダ販売所において、司法警察員石川平八郎が、本件自動車の車体を検査するに際してこれに立会した旨の供述記載があるが、申立人は真実は右当時見上公司が立会しなかつたことを主張し、証拠として、前掲横浜地方裁判所損害賠償請求事件の昭和三十一年十月十七日午前十一時の証人見上公司の尋問調書の謄本を提出しているが、右の調書の記載によつては直ちに申立人主張のように見上が前掲本件車体検査に立会しなかつた事実は認められず、反つて、右調書によれば当時同人は前掲販売会社社長寺島寧の命により、これに立会した上、同日任意司法警察員に対し、一件記録中、司法警察員に対する見上公司の供述調書記載のような供述をしたことが認められるから申立人の前掲(三)の主張も亦理由なきものとして排斥を免れない。

よつて本件再審の申立は以上のとおりいずれの点から考えてもこれをとることができないから、これを棄却すべきものとし、刑事訴訟法第四四七条により主文のとおり決定する。

★ (別紙略)

(裁判官 小木曾茂)

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